『いっぱい生きてる』 詩と絵 山崎るり子

詩集

『いっぱい生きてる』
  定価1430 円(本体1300 円+税)
  発行所 四季の森社 B5変形上製本 カラーページ多数
  ISBN978-4-905036-41-8

小動物や昆虫など生きとし生けるものの豊かな営みを35編の詩に収録した山崎るり子はじめての少年少女向け詩集。

 草のやわらかなトゲトゲが、まだての
ひらに残っているうちに、のはらの詩
を本にしたいと思いました。
(著者あとがきより)          

著者 山崎るり子 絵 山崎るり子
1949年、長野県生まれ。愛知県在住。
1999年に第一詩集『おばあさん』(駿河梅花文
学賞)を出版。詩集『だいどころ』(現代詩花椿賞)『家
は』『風ぼうぼうぼう』(晩翠賞)『爪切るおじさん』
『終わらない絵画展』『雲売りがきたよっ』『山崎る
り子詩集』(以上、思潮社)『地球の上でめだまやき』
(小さい書房)『猫まち』(中日詩賞)(ふらんす堂)他、
絵本に『おばけえんは すぐそこです』(福音館)『あっ
ちの猫』(空とぶロバ出版)などがある。

詩集から

  のはら


草は死んだバッタの上に
種を落とす いっぱい
ハラハラ ハラハラ


種は芽を出し根を張って
伸びていく いっぱい
ぐんぐん ぐんぐん


卵からかえったバッタの子どもたち
土の中から這は い出して いっぱい
ぐんぐん育った草を食べる
ワシワシ ワシワシ
どんなに食べても
草はたっぷり

ぐんぐん ワシワシを
風が揺らしていく

目がさめたら

目がさめたら
夜だった とフクロウ
目がさめたら
春だった とコウモリ
目がさめて うれしいな
目がさめて よかったな

目がさめたら
人間がいた とかごのインコ
目がさめたら
神様がいた と死んだスズメ
目がさめて うれしいな
目がさめて よかったな

  あちゃすっこん

虫の子どもが草から落ちた
鳥の子どもが枝から落ちた
人の子どもがベビーカーから落ちた
落ちて土の匂いをかいだ
なつかしい匂い
なんにでもなれる匂い

あちゃすっこん
虫はでっかいシャクトリムシになって
ビルをまたいだ
鳥は恐竜にもどり
テレビのコマーシャルに出た
人はベビーカーと合体して
ブルルグーン
地球一周 まだ帰ってこない

  アリ

私が死んだ 人間に踏まれて
でもそれって 私じゃない
私が死んだ アリジゴクに落ちて
でもそれって 私じゃない
私が死んだ 雨水に流されて
でもそれって 私じゃない

女王様 女王様
もっと私を産んでください
私をどんどん増やしてください
もっともっと私が増えて
私が私を悲しまないように
ひとりぼっちでなくなるように

  クモ

子グモが百匹風に乗った
お尻の糸をパラグライダーにして
タンポポの綿毛といっしょに
いくつもの野原を越えて
(何匹かが鳥に食べられた)
いくつもの川を越えて
(何匹かが落ちて流された)
いくつもの町を越えて
そのうちの三匹が
(他のクモのことはもうわからない)
ベランダのシーツの上に降りて
洗濯物といっしょに取り込まれた
一匹はこの家の主のハエトリグモに食べられた
もう一匹は掃除機に吸い取られた
残りの一匹はどうしただろう
何日かして押入れのすみに
クモの小さな抜け殻があった

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