第58回 日本児童文学者協会新人賞(2025年度)に秋元里文詩集『月にすっぴん』が選ばれました。
秋元さんの『月にすっぴん』は小学校高学年から中学生、高校生さらに大人まで幅広い世代の方々に楽しんでもらえる詩集である。『月にすっぴん』は三章から成り立ち、それぞれユニークな詩篇で構成されている。
第一章<きみこい詩>では12歳から15歳くらいの少女の淡くも切ない恋心を歌い上げた詩篇たち。<きみをおもいだすと/かおがひとりでにゆるむ/はなしたことを/なんどもなんども/あたまのなかでくりかえしては/きづくと/おもいだしわらい//つぎは/いつ/あえるかな>という作品「萌え」をはじめ、少女の初々しい恋心を描く。<ほどけていく力と/このままでいたい気持ちの/まざりあうところで/立ち止まっている//あせらない//でも/とどまることも難しい//そんなにみつめられると>という作品「つぼみ」。また、恋人ができたら、自転車でふたり、ずっと夕暮れの下を走りつづけるものだと夢みる少女も美しい。少しずつ大人になっていく季節をさわやかに描く詩篇たち。ときに歌詞のような軽いノリのことばと沈んだかげりあることばが交差し合う。
第二章<いろいろある詩>では、ひとが生きていくなかで出会うさまざまな場面を手際良くすくいとった短い詩篇が魅力的。ユーモアといくらかの毒気を含みつつ読み手の心に突き刺さる。たとえば<口からこぼれ落ち/あっと思った時には/空気を焼け焦がし/穴をあける//こころには/いつまでたっても/消えない痕>(「失言」)。空気を読めず友だちの前で唐突に凍りつく失言の瞬間。ときに、ひとは<なにかになりたくて//いまある/わたしではないものに/なりたくて//><どこかへむかって/それでも/どこかへむかって//このてを/のばそうとしている>(「なりたくて」)、今を生きようとしている少年少女のもがきと希望を暗示させる詩篇。<自分のが狂ってるのか/世間のが狂ってるのか>(「時計」)、<そう言われるのが一番こまる/そう言われるのが一番つまる>(「ふつう」)など、やんわりと問い掛けてくる。ひとは、そのような悩ましい日々をひとつ踏み越えて思春期を、青春期を生きていく。
第三章<おはな詩>では少し物語的な作品がならべられている。夜眠ろうとするとどこからかゴオーッと音を立てて何かが通り過ぎていったり、<ああ、もうイヤなことばかり/ぶつぶつ/ぶつぶつ>と口からこぼれたぶつぶつが今度は<つぶつぶ>になって、たくさんの<つぶつぶ>が行列になって追いかけてくるなどユーモアにあふれた思いの詩篇やひとの人生は「幸せ」と「不幸せ」の織物で成り立っているらしいと物語る詩篇「仕立屋」など味わいの深い作品たち。
秋元里文さんの詩集『月にすっぴん』の編集制作にあたってはいくつかの困難やハードルがありました。。10月はじめに詩集発行の問い合わせがあり、秋元さんが10年以上もブログで発表してきた長い作品や短い作品が百篇ほどプリントアウトされたもの、また文芸誌「ざわざわ」(四季の森社発行)、詩誌「少年詩の学校」、「みみずく」などに折々発表された詩篇40篇などが送られてきました。これらの詩作品から詩集を作ってほしいとのことでした。<おはな詩>の構成にさせていただきました。
表紙絵やさし絵は秋元さんが見つけてこられた広く活動されているイラストレーターの波田佳子さんにお願いしました。波田さんの作品に即しながらも遊び心のあるさし絵はページをめくる読み手にほほえみを与えてくれるユーモアに満ちています。
もう一つのハードルは第一章<きみこい詩>に作品「バレンタインデー」があるゆえにどうしても発行日を2月14日にしてほしいということでした。しかも、その十日後には親しい友だちによる出版記念会まですでに用意されているということでした、
小社での詩集刊行では少なくとも原稿のなおしや絵の制作をふくめて六か月は時間をいただいているが今回の秋元さんの詩集はかなりのハイスピードで私たちスタッフも秋元さんも真夜中にメールのやり取りをするなどハラハラドキドキのあわただしい編集発行でありました、ぎりぎりに無事納品し、児童文学者協会の新人賞という栄誉ある大きな賞に輝くとは嬉しい限りです。
小社刊行の詩集、清水ひさしさんの『かなぶん』、田代しゅうじさんの『ともだちいっぱい』、野田沙織さんの『うたうかたつむり』、松山真子さんの『迷子』の三越左千夫賞につづいての新人賞受賞となり改めて詩集発行の責任の重さを感じている次第であります。
秋元里文さんのますますのご健筆とご活躍を願っております。
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