詩集 かんじくん 高橋秀雄詩集
2026 年3 月25 日 初版第一刷発行
著者 高橋秀雄 絵と装丁 德升寛子 発行所 四季の森社
定価1540円(本体1400円+税)ISBN978-4-905036-46-3 C0092
著者 高橋秀雄(たかはし ひでお)
栃木県生まれ。日本児童文学者協会会員。「季節風」会員。「うつのみや童話の会」会員。『地をはう風のように』(福音館書店)で第58回青少年読書感想文全国コンクール課題図書、『やぶ坂に吹く風』(小峰書店)で第49回日本児童文学者協会賞受賞。『父ちゃん』『ぼくの友だち』『空にさく戦争の花火』など著書多数。宇都宮市在住。
画家 德升寛子(とくます ひろこ)
福岡出身。女子美術大学洋画科版画専攻卒。日経新聞映像ニュース部、テレビ東京番組制作を経て、建築の専門学校で色彩、造形講師、自由学園公講座講師等歴任。あとさき塾28期。
詩集より
天
からのレジ袋が
青空をのぼっていく
飛んでいるのか
遊んでいるのか
天をめざしているのか
ポーヒョロロ
じいちゃんがいった
山が ぼやけてきたぞ
山桜までちりはじめた
ポーヒョロロの季節だなや
いいだしたらもう 里山に向かってる
山を見る
木も 草も 葉っぱも
ありったけの色がついて
目をつぶりたくなるほど
まぶしい春色になった
じいちゃんはいう
本当は ポーヒョロロじゃねえ
しらきの芽だ
正しい名前はコシアブラ
でも ポーヒョロロだ
てんぷらでもくえる
ごまあえにもなる
だけど ポーヒョロロだ
エンピツくらいの枝が 二本いる
一本だけ ポーヒョロロになる
一本はていねいに切って
五センチくらいのところの皮に 切れ目を入れ
そしてひたすら もう一本をこすりつける
五センチの先の 長いほうの色がかわったら
皮から 白い中身が引き抜ける できあがりだ
五センチのところを持って
長いほうの皮をのこし 引いていく
白木を引きながら 皮の先っちょに息を吹きつける
そのとき ポーヒョロロが笛になる
春の山だけのおくりものだな ポーヒョロロ
登校班の七時半
団地をでると 学校まで 田んぼの中
登校班の七時半
冬の日でも おでこに太陽
熱くてまぶしくて
風だけ つめたくて
長い影の 班長さんの旗
ビュービュー バタバタ
班長さんのあと ひなちゃんがおいかけ
二年のしょうくん 北風よけて 右に左に
なまいき つばさ げんこつ合わせて二宮金次郎
元気いっぱい Tシャツ四年生かんじくん
かんじくんの分まで ぼく ふるえてる
副班長のさやかちゃんの
はたもビュービュー バタバタ
でもね みんなのかげ
せいたかノッポ
頭も足も すっごく長くて
電柱のかげなんか けとばして
電線の上 つなわたり
しもばしらの田んぼ キラキラ
影までキラキラの 団地西一班登校班
大谷石
火山灰が海底で石になった
古代に隆起した
むき出しの断崖が 続く
行けども 行けども
凝灰岩の岩肌が 空に向かっていて
古代が今 目の前に
そんな 観光地だという
石材の採掘跡から
人間の足跡が見えるけれど
観光客だけが 歓声を上げるけれど
空に突き刺さる岩山は
雲に呼びかけ
風と話し
太陽と ほほえみを交わす
みんな 古代からの付き合いだ
そうだ
今日こそは 断崖たちの声を
聞きに行かねば
風景
母ちゃんとリヤカーで
モルタル用の鉄板を一枚 取りに行く
リヤカーに積むのは きっと大変だろう
宇都宮と今市の境は なだらかだけど峠の山道だ
昼間だから 言い伝えの追いはぎも出ないだろうけど
やっぱり ぞっとする
里に近くなったら 六年生は 人目も気になる
鉄板が置きっぱなしの家
軒下をモルタルで平らにしたようだ
鉄板の上で モルタルこねるとこ 想像した
バケツで測った砂10杯 セメント1袋
両側から シャベルを交互に出してかき混ぜる
そして まん中を空けて水 バケツで3杯
きっとマサゾウやんと 若いよしおさん
いくぞのかけごえ
まん中の水を 鉄板の外にこぼさないように
かき混ぜる
あの素早さと呼吸に 息を飲む
母ちゃんと 腕が抜けそうなほど重い鉄板を持つ
家のおばさんが リヤカーを押さえていてくれた
礼をいって 母ちゃんが鉄板にロープをかけた。
母ちゃんに ロープのナンキン掛けを教わる
締めるときに オレも手を貸した
リヤカーは母ちゃんが引いて オレが押す
鉄板が軽い荷物になった
夕焼けが鉄板運びの背景になった
狭すぎる県道に出る
バスやトラックとの交換に 時間がかかった
鉄板のはみ出たリヤカーが 崖ギリギリを通る
トラックはリヤカーをよけて バサバサと杉の枝を折った
ようやく開けた視界 オレたちは村の風景の中にいた
母ちゃんは 気楽に挨拶を交わしている
オレだけ 堂々とできないのだ
鉄板の持ち込み先は 農協の現場
倉庫の床の 石積みの胴突きは終わっていた
コンクリートで固める
また 人がコンクリートを練る
――リヤカーごと 立てかけっか
いい考えだ 大谷石の壁に リヤカーを立てかける
斜めになった所で、ナンキン掛けをはずす
リヤカーを戻す 近所の子どもたちが見ていた
オレと母ちゃんは 土方の風景の中にいる

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