三谷恵子詩集 風のブランコ
著者 三谷恵子
画 大井さちこ
2026 年4 月25 日
発行所 四季の森社
定価1430円(本体1300円+税)
ISBN978-4-905036-44-9 C0092
都会で生活する小動物や鳥、草花たちとの
出会い、共に暮らしてきた日々、移り行く季節、
同じ時代を共に生きて来たひとの残像と
都心で暮らす家族のこころのアルバム。
著者 三谷恵子(みたに けいこ)
一九六〇年 東京生まれ。品川区在住。
学習院大学文学部史学科卒業
詩集 『つくりわらい』(らくだ出版)
『七つ葉のクローバー』(らくだ出版)
『虹のかけら』(てらいんく)
日本児童文学者協会会員。詩誌「みみずく」同人。
「ざわざわ」会員。
画家 大井さちこ(おおい さちこ)
一九六二年 東京生まれ。世田谷区在住。
小学生の頃から山本日子士良氏に油彩画を学ぶ。
子どもの誕生を機に、絵本作りや銅版画を始め、
グループ展などに出品。エッチングにやわらかな
彩色を施し、物語を持つ小さな世界が注目される。
装画に詩集『ねこの秘密』『原っぱの虹』(いしずえ)
『風のシンフォニー』『三日月の人』(てらいんく)
『仙人』『かくれんぼ』『空のピアノ』(四季の森社)
などがある。
詩集から
赤絵みみずく人形
居間のはしっこ 棚の上に 赤いみみずく人形が飾ってある
大きいみみずくは5センチ 小さなみみずくは2センチ 江戸
東京博物館に行ったとき おみやげ売り場で見つけた オリジ
ナルグッズ かわいい。
江戸時代 子どもを災いから守る強い力をもつと信じられた赤
病気が流行すると 赤い玩具を 子どもの枕元に置いて 無事
を祈ったという 当時おそれられていたのは天然痘だ 博物館
所蔵の歌川国芳の版画「赤絵みみずく」 この絵をもとに 赤
い泥絵具で塗られた 練り人形として 再現したものだ おか
おは白で 赤い丸い目が くりくりしている おなかは黄色で
「壽(ことぶき)」と書いてある。
江戸の民間信仰 医学が進歩した現代では この人形が災いを
除くとは思えないが 子どもの病気が治りますようにと願う気
持ちは いつの時代も同じ ひとつひとつ手作りしている職人
さんが現代にもいる。
居間で 赤絵みみずく人形と目が合うと 心が安らぐ 新型の
病気が世界中に広がったときは 手に取ってつつみこみ 祈り
たくなった 置いてある場所が カーテンの影になり陽が当た
らないことが幸いして 色あせない 長年たっても 赤が鮮や
かだ 何か力がありそうな気がして ときどき そっと乾拭き
元気をもらっている。
ゲリラ豪雨
遠くで雷が鳴っている いつもの帰り道
間もなく
大粒の雨が ボツッ ボツッ
先も見えぬゲリラ豪雨に
足早に歩くしかない 傘はさしている
顔も体もどんどん濡れていく
ショルダーバッグの中身が心配
くつの中は水で びちょびちょして重い
二、三分あったかどうか
排水溝に入りきれない水が
車道の端で小さな川となり 勢いよく流れる
車が通るたび バシャー バシャー
わたしの足元めがけて 水を散らして過ぎる
ただ 家を目指す しかない
帰宅
指先からスカートの裾から水滴が落ちている しばし放心
年々威力を増す東京のゲリラ豪雨
二〇二四夏が怖い
季節の狭間
十一月 晩秋の日
都立小石川後楽園の池のほとり
燃え上がるように まっ赤に色づいた
もみじの大木
アオサギが 枝にとまり
羽づくろいをしていた
十二月 初冬の日
近くの公園
南天の実が赤くなり
つややかな深緑の葉のかげに
アオスジアゲハがとまり
傷んだ羽をとじて 風に揺れていた
木枯らしの中 思い浮かべる
もみじは大地を染め尽くし
アオサギは ねぐらの水辺で
鋭い目を光らせ 細い足で立っているだろう
南天の実はますます赤く たわわに枝を垂れ
羽をとじたアオスジアゲハは
ひそかに土にかえっていくだろう
地に根ざし
赤の色を盛りとして生きるもの
空にはばたき
青い色に身を染めて生きるもの
鮮やかに いのち せめぎ合う
せめぎ合う季節の先に
冬がやってくる
十二月
駅へと続く ケヤキ並木
北風が吹き渡る
歩道に 枯れ葉が散って
ファラファラ ファラファラ
音を奏でている
見上げると 空が青い
木々の枝から 葉が旅立ち
回り回って 踊り踊って 降ってくる
次から次から…
わたしの肩をたたく葉
拾い上げる
瞬間 カシュッと粉々になった
そのとき
心の中で
気にかかって離れない あのことが
カシュッと粉になった気がしたの
手のひらを開く
粉々の葉が 北風に乗って流れてゆく
知らない所まで飛べるといいな
わずかに残った粉は
木の根元 土の上に丁寧に払い落とす
ここに居るも良し
季節はいつしか巡る
時は正確に刻まれて
十二月の朝
お別れ
小学校一年生の秋 わたし六さい
おじいちゃんは裏庭で倒れて
救急車で運ばれ
その日のうちに死んでしまった
わたしは学校から帰っていて
だれか友だちが来ていて
なわとびをして遊んでいた時のこと
お葬式があって
火葬場で ワンワン大声で泣いたらしい
親戚のおばさんが
―孫がこんなに泣いてくれるとは
と話していたそうだ
死んだ日のことは覚えている
それから何日も
わたしは泣き続けたらしい
泣いたことは覚えていない
冬の使者
冬の晴天
庭の陽だまりに
一羽のツグミが おり立つ
―毎年毎年 飛んで来るね 昔から
母が言う
ツグミは 赤い実をついばみ
周囲を警戒するように 静止する
確かに 去年もおととしも
必ず一羽
冬に出会った
―変わらないね 同じ……
木の枝が揺れる 北風で
同じ鳥ではない
同じ鳥がずっと来ることはあり得ない
なぜ この庭へ
どこかで命の引き継ぎがあった……
それとも 飛来は 偶然の連続
あなたは どこかで
だれかに聞いたのですか
次々に浮かぶ疑問
ツグミとお話ししたい
風が渡る
空は青い どこまでも青い
ツグミが飛び立つ

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