発行日 2023年6月25日著者 戸田たえ子企画・編集 菊永 謙 カバー絵 大井さちこ四六判並製本文192ページ発行所 四季の森社 定価1320円(本体1200円+税) ISBN978-4-905036-36-4 C0392
戸田たえ この既刊詩集、未刊作品からのアンソロジーに加えて特別に父藤原義衡の戦記『私のビルマ戦線』を抄録する。解説に畑島喜久生、はたちよしこ。菊永謙。
著者戸田たえこ略歴
一九四八年 愛媛県大三島町(現・今治市)に生れる。中学のころから詩を書き始め、児童文学誌「ぷりずむ」秦敬主宰の同人になる。一九八七年 父のビルマ戦記「私のビルマ戦線」を出版する。著書に詩集『しずかなる ながれ』(近代文藝社)、詩集『夕日は一つだけれど』、詩集『ききょうの花』。
『戸田たえ子詩集』から
夕日は一つだけれど
山に のぼると
また
山が みえる
山って
いくつあるのだろう?
夕日が しずむ山は
一つだとおもっていた
ずっと
そうおもっていた
みんな しっているのかな……
ゆかちゃんに おしえたい
としくんにも おしえたい
夕日は一つだけれど
山は
たくさん
たくさん
あるってことを─
ぐい実を食べると
小鳥のように
ぐい実の枝には とまれないけれど
高い空も とべないけれど
ぐい実を食べると
小鳥のきもちが
ちょっぴり わかる
ことしも
ぐい実を食べながら
小鳥になった気分!
わかります?
この気分!?
─いつか
小鳥と 話してみたい
わたしのことも
小鳥のことも
どっちもどっち
わかり合いたい─
注 ぐい実……ぐみの実のこと
母の声
海が見える
みかん畑にかこまれた小高い丘に
父母の墓はある
墓のまわりには草が生え
白い小さな花が咲き
たがいに ささえ合い
風にゆれていた
一瞬
─草も生きとるんじゃけん
ひかんでええよ
と 母の声が聞こえ
そのままにして 手を合わせた
気づくと
どこかで小鳥が鳴いて……
雲の流れる空の下
この世の私は
やわらかな早春の風と
みかんの木々の
葉ずれの音に見送られ
細い坂道を下った
コメント