現代こども詩文庫 1  山中利子詩集

現代こども詩文庫

現代こども詩文庫 菊永謙責任編集 

第一回配本 現代こども詩文庫 1  山中利子詩集

発行日 2021年2月25日 初版第一刷発行 定価本体1200円+税

著者 山中利子 企画・編集 菊永 謙 カバー絵 大井さちこ

 ISBN978-4-905036-24-1 C0392

 現代こども詩文庫は、子どもの読者から広く大人まで楽しめる詩と詩人の全体像を明らかにし、広く世に問うものである。基本的には詩人の詩・童謡の選集として児童文学評論家菊永謙が企画、編集し、解説を付したものである。

 すぐれた詩篇の数々、童話、そしてエッセイ・評論等を収録し、さらに詩人について他者からの重要な批評の再録、オリジナルの解説を収載し、詩人の裡に輝く児童文学の姿を浮き彫りにしたい。

現代こども詩文庫 1  山中利子詩集 (詩人論作品論 森くま堂、菊永謙)

著者 山中利子(やまなか としこ)

一九四二年一月二十一日 茨城県土浦市に生まれる。

少女時代、「いづみ」「文芸首都」などに詩を投稿。国立療養所東京病院付属高等看護学校卒業後看護師として働く。

一九九八年、詩集『だあれもいない日―わたしの おじいちゃん おばあちゃん―』(リーブル)で第三回三越左千夫賞受賞。二〇〇八年、詩集『遠くて近いものたち』(てらいんく)で第27回新美南吉児童文学賞受賞。日本児童文学者協会会員。

著書に『早春の土手』、『空にかいた詩』、『まくらのひみつ』、『こころころころ』、エッセイ集『かわいや風の子―重症心身障害児訪問看護便り―』、童謡詩集『ガードレールの歌』ほか多数。

詩集から

  おじいちゃんのとっこうやく

百日ぜきがなおったあとも
せきがなかなかとまらなかった
まわたなんかを首にまかれて
えんがわで絵本をみていたら
ヤツデやアオキの木のかげから
おじいちゃんがふっとでてきた
「さあ おくすりだ 口をあけて」
あーんと大きく口をあけたら
いつものあめだまではなかった
どろっとした小さいかたまり
おじいちゃんは コップに水ももっていた
「なあんだ ほんとのおくすりかあ」
でもお医者さんのこなぐすりでもない
えんがわのてんじょういちめんにぶらさがっている
やくそうでもない
おじいちゃんのせきのくすりって
すばらしくよくきくとっこうやくって――
あとでわかった
あれはナメクジの小さいの
ナメクジは ときどき
わたしのおなかのなかをさんぽした
わたしのおなかのなかには 草も木もないのに
おじいちゃんは
「おまえのせきをとめてナメクジはとうにでていったよ」
と いうけれど
わたしはもう
けっして
おじいちゃんのおくすりはのまない
あめだまだよって
大きな手をひらいて
みせてくれても

  ねこ

よなかに
「もしもし もしもし」
ねこがわたしの肩をたたく
「ちょっとおきてごらんなさいよ」

しかたなくおきて
「どうしたの ?……」
と聞くと
ねこは窓のほうをみている
窓を開けると月夜だ
「こんな月夜には不思議なものが飛ぶ」
とねこが言う
じっと月を見ていると
とんでいく
昼間乗ったバス
花屋の花々
郵便ポスト
うすく透き通ってやがて
東の空に見えなくなる
ねこといっしょに月の夜に
昼間のものたちが
飛んでいくのを見ていると
私も飛んでいくようにみえた
昨日の私は消えていく
明日の私がやってくる
「もうまどをしめてもいい?」
猫をだいて
やわらかく
続きの夢を見る
月の夜に

ほしくずとみのむし

トナカイのひづめにあたって
天の川のほしくずが とんできた
北風にのってはだかんぼうのけやきのこずえにひっかかった
冬眠していたみのむしが
ちょいとまぶしくて 目がさめて
もじもじ もじもじ かおだして
「おやおや めずらしいおきゃくさん
ちょっとあたらせてくださいな」
星にちかよってみたけれど すこしもあたたかくはなかったと
「やっぱり寒くてたまらないよ」
くびをすくめて じりじりじりじり
「おおさむさむ はるはまだまだ」
みのにすっぽり もぐってしまった

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