詩集 迷子

詩集

2023 年9 月15 日 初版第一刷発行著者 松山真子画と装丁 こがしわかおり発行所 四季の森社ISBN978-4-905036-34-0 C0092A5変形 上製本 128ページ 定価:1320円(本体1200円+税)著者 松山真子
一九四五年生まれ。信州中野市で育つ。詩集『こんぺいとう』星の環会『詩集﹁さ
よならさんかく・またきてしかく』北信エルシーネット社、『だれも知らない葉の下のこと』四季の森社など。日本児童文学者協会会員。

画家 こがしわ かおり 
一九六八年生まれ。埼玉県育ち。作絵に『おうちずきん』(文研出版)など。絵に『料理しなんしょ』(偕成社)『ダジャレーヌちゃん世界のたび』(303BOOKS)、詩集『ぼくたちはなく』(PHP研究所)『魔女のレッスンはじめます』(出版ワークス)など。
HP http://www.pagoda-house.net/

帯より
こどもたちへ 野山の香りする言葉の花束プレゼント

詩集より

  つめきり

よくきれる
つめきりを
ひとつもって
どこかへ行きたい

草いきれのする
原っぱのまんなかにある
高い
けやきの木のてっぺんで

村の火の見やぐらを
羊や鶏やうさぎ小屋を
だいすきな千曲川の流れを見ながら

ぱっちん
ぽっちんと
ひとりでつめをきりたい

家族のだれからも
何も言われないで

鳥になったり
雲になったり
風になったり

 

 風の通り道

夏の暑さが残る夕方
わたしは長い坂道を歩く
橋を渡って商店街まで

ここは風の通り道

コロッケを揚げている匂い
モモの熟した匂い
古本屋のたいくつなインクの匂い
そして
いろんな人の汗の匂いが

地球のように丸く回転して
花火のように広がったり
雲のようにいびつになったり

かあさんは
アップルパイを焼くから
早くりんごを買ってきてね
って言うけれど

ここは風の通り道

ゆっくり
のんびり
道草をして

 心待ち風

木の芽風
花風
若葉風

白南風
熱風        
夏はやて

萩風
雁渡し
舟待風
 
落葉風
天狗風
虎落笛

 ランプの下で

ばあちゃんがネジを
くるくる巻くと芯がでてきた
マッチで火をつける
ひょうたんみたいなガラスのほやをかぶせると
ねえちゃんの顔が浮かんできた
│うあああ 明かるくなった

とうさんは手帳を広げてひとりごと
│あしたの仕事の段取りはどうしようかなあ
 
ばあちゃんは
きのうの続きの小説を読みはじめた
わたしは夏休みの宿題の日記を書く

――とうさんのりんご畑には
  電気がありません
  村とはなれているので 電線がこないのです………

それからもっと書こうか
終わりにしようか
ランプの炎を見る

ランプは
夜のかしらみたいな顔をして
だまって
みんなを見まわしている

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