めぐるものたちに   北原悠子 

詩集

めぐるものたちに  
著者 北原悠子  絵 平垣内清
発行 四季の森社  定価1430円(本体1300円+税)
A5上製本 カバー装 本文96ページ 
 ISBN978-4-905036-38-8 C0092
2024年5月25日発売

「私は、今ここにいて、世界の果ての知らない誰か、そして遠く去っていった者たちともつながっているのを感じています。ただめぐるものとして―。」(著者あとがきより)

著者 北原 悠子(きたはら ゆうこ)
1951年宮城県生まれ。1980年から詩作活動を始める。1996年第8回日本児
童文芸家協会創作コンクール入選。日本児童文学者協会会員。仙台市在住。
著書 詩集「落日まで」(創童舎)、詩集「子どもの宇コスモス宙」(私家版)、詩集「あなたがいるから」(‘銀の鈴社)、詩集「なのに そのとき」(銀の鈴社)、エッセー集「風と空と─わたしが子どもだったころ」(三陸河北新報社)、詩集「今私がふれているこの木のぬくもりは」(河北新報出版センター)、合唱曲集「女性合唱組曲〈伝言〉なかにしあかね作曲・北原
悠子作詞」(カワイ出版)
画家 平垣内 清(ひらかきうち きよし)
1964年広島県生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科版画専攻、現在 宮城教育大学教育学部教授。現代日本美術展(佳作賞、兵庫県立近代美術館、下関市立美術館賞等受賞)、国展(前田賞、平塚運一賞受賞)作品は銅版画、リトグラフ、デジタルプリントなど多彩である。現在 国画会会員、日本版画協会会員、版画学会(運営委員)。仙台市在住。

詩集から


早春
旅立ちの朝
遠く雷鳴を聴きながら
靴のひもを結ぶ

秋夜

夜更けに
 井戸の月を呑のむ

かなしみ

しずかな山に向かって
しずかに立つ

かなしみが
光に変わる

   春のある日

春のある日―

小鳥たちが
庭で
光のかけらを
ついばんでいる

そこが
神さまの
てのひらとも
知らずに

 夏のはじめ
百年もしたら
あの若いカップルも
乳母車の母子も
そして
コーヒーショップの窓越しに
通りを見ている私も
もうここにはいない

   (別々の港を出た船も
   最後はみな
   同じ港に辿り着く)

夏のはじめの街は
まぶしいほどに
光が溢れ
影だけが濃い

  思い出

いつでも
あの日の私に
もどりたいから

そうして
そこから
始めたいから

その人のことは
一個の
美しい星のように
遠いままにしておく

大きな環の中で
ふたたびめぐり会う
その時まで―

   帰郷

山も川も
私を
おぼえていてくれた

海へと続く
小道も
村はずれの
大きな楡の木も―

丘の上に立つと
風が 私を
遠い日へと
連れていってくれる

―おかえり
  よく帰ってきたね

なつかしい声がして
私は
みんな忘れた

コメント